狛犬の鳴き声

近江八幡のまちづくりに取り組む中で、考えたこと、学んだこと、もやもやを記す内訟録。

流れとかたち

世界の見方が変わる一冊

都市や地球を生物に比喩し、生態学として考えることに魅力を感じている。

しかし、この本では、もっと物理学的な視点で、まさに「流れ」と「かたち」にあらゆるもののデザインの法則性を説明している。とてもシンプルで明確な定義付けと世界を紐解く論理展開が、読んでいて面白い一冊。

 

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

 

 

■「コンストラクタル法則(constructal law)」
・この法則は、血管組織や移動、社会組織などを含め、生命を持たない河川から生き物のデザインまで、自然というモザイク全体に及ぶ。
・ゆう現代の流動系が流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れをよくするように進化しなくてはならない。
・生物、無生物の別けなく、動くものは全て流動系である。流動系はみな、抵抗(摩擦)に満ちた地表を通過することの動きを促進するために、時とともに形と構造を生み出す自然界で目にするデザインは偶然の所産ではない。それは自然に自発的に現れる。そのデザインが、時とともに流れをよくするからだ。
 
■「生きている」こととはどういうことか
この法則は、生きているということの意味について新たな理解を提示し、それによって、科学のさまざまな分野を隔ててきた壁を取り壊す。生命は動きであり、この動きのデザインをたえず変形させることだ。生きているとはすなわち、流れ続けること、形を変え続けることなのだ。

 

■全ては地球という流動系の構成要素である
・森はあるかに大きい地球規模の系の一器官と言える。同様に、個々の動物は、大陸を移動する全動物の一器官と言える。
コンストラクタル法則は、進化についてのダーウィンの考えに物理的原理の後ろ盾を与える。より良いデザインの生成を通じて現れることを示してくれる。
・また、進化についての私たちの理解を拡げ、生物学的変化という自然の傾向が、無生物の世界を形作るものと同じ傾向であることを示してくれる。
いっさいのものは、同一の普遍的な力によって形作られ、想像の一大交響楽を奏でながら、それぞれが全体を支えているのだ。

 

この書籍を読んでいて、建築デザインをバーナード・ルドフスキー『建築家なしの建築』が頭に浮かぶ。その土地ごとの風土や気候によって、多様な土着的な建築が紹介された一冊。山脈を俯瞰して写したような建物群は、まさに流れとかたちから生まれた姿。

今日、高度な技術進歩によって風土や気候から切り離された自由な造形が可能な建築が建てられている。都市においては、自然気候の影響だけでなく、人間の密度とライフスタイル、地価などの「ながれ」から多様な「かたち」が生まれているのではないだろうか。

 

大きな共同体意識

「流れとかたち」は、生物活動は地球の流動系の一器官という超マクロな視点を提示している。自然は地球上でより多くの質量の移動を促進するために進化し、無生物のデザインはそれを細くする活動としている。

人間活動は、自己中心的な経済活動から持続可能な経済活動へ転換しなければ、流れを遮り邪魔をする存在になってしまう。

 

しかし、この本では、特に多様性について言及していないが、人間活動における文化や伝統や芸術は、大きな流れの中では摩擦され消えてしまうものなのだろうか。人間活動を補助し健全な活動を促すのに必要なものだけ残っていく。

人間を中心とする社会に生きているという価値観では、水が淀み、流動系の流れが健全でない。人間同士の関係性だけに意識を向けるのではなく、もっと大きな共同体意識を持つことが必要だ。